うまみキッチンコラム好きなものに囲まれた美しい暮らし(平野さん/インタビュー)

2021年04月13日更新

好きなものに囲まれた美しい暮らし(平野さん/インタビュー)

大正時代に建てられた建造物を自分好みの住空間にリノベーションして、暮らす料理研究家の平野由希子さん。明るい陽ざしが差し込むキッチンスペースは、すべて白で統一され、海外のアパートメントのよう。古い廊下部分を残して造作したアーチ棚には、愛用している「ル・クルーゼ」の鍋が並べられており、まるでひとつの絵のような情景を生み出している。

自分の好きなものを育てるスタイル

「うちのキッチンは白を基調にしていますが、新しいときが一番美しいのではなく、10年、20年と月日を経るごとに味わいが生まれる〝エイジング″がテーマなんです。例えば、無垢材の床やタイルは傷ついたりもするし、汚れやすいけれど、時間とともにそれが味わいになっていくでしょう? 愛着を持って過ごすと、キッチンに立つ時間がより楽しくなっていく。同じように道具も5年、10年と使えば使うほど、味わいが増していくものが好きですね」


古き良き味わいを楽しみながら、心地よく暮らす。そんな平野さんが長年愛用しているのが1925年創業、約100年の歴史を持つフランスの鋳物ホーローウェア「ル・クルーゼ」だ。


「初めてル・クルーゼのお鍋を購入したのは、もう25年以上前のこと。日本ではシェフをはじめ、料理好きに定評の高い機能的な鍋として知られていますが、本国フランスでは親子三代で譲り受ける鍋としても広く愛用されているんです。ご飯を炊いたり、食材を煮るだけでなく、炒める、焼く、蒸す。いい鍋だからこそ、フライパンのように普段使いしています」


その言葉を裏付けるように、キッチン横の収納棚には使い込んだ「ル・クルーゼ」の鍋が並べられている。

「長く使える道具を選べば、料理がもっと好きになる」

「白い鍋もたくさん持っていますが、新品のようにピカピカじゃなくてもいいんです。鍋は使ってこそナンボ。着色してきたら、それはきっと料理がうまくなった証ですよね。お客様用の布ナプキンや銀のカトラリーもそう。特別な日に使うのではなく、普段から積極的に使って日々の暮らしに小さな楽しみを見つけるのも大切なことだと思うんです。特に今は家で過ごす時間が長いので、自分の好きな食器や好きな調理道具があったほうが気分が上がるはずですよ」


自分が気に入ったものと長く上手に付き合っていく。それは愛情をかけて丁寧に味を引き出す、平野さんの料理にも共通している

「道具選びのポイントは暮らしに合うサイズ感」

「色やデザインに気を取られてしまいがちな調理道具ですが、一番大切なのは〝暮らしに適したサイズ″を選ぶこと。初めてル・クルーゼを買うなら、自分が普段よく使う鍋の大きさに+2cmくらいがベストかなと思います。使いやすい大きさから始めて、もう1つ欲しくなったら次はご飯用の鍋にしようとか。そんな風に選んでいくのも楽しいのでは」と平野さん。まずは、自分や自分の暮らしときちんと向き合うこと。道具を選ぶこともそこからはじまるのだと気づかされる。

「自由な考え方でテーブルを楽しんでみては?」


「白や黒い食器はシンプルでコーディネートしやすいけれど、それってなんだか味気ない気もするんです」一般的には色数を2~3色までに絞るとまとまりがよくなるというが、テーブルコーディネートも決まったルールに当てはめるのではなく、自分が好きなものを好きなように楽しんで欲しいと語る。


「大切なのは知識や情報ではなく、自分の好きなコーディネートを心から楽しむこと。好きなものに囲まれて心地よく暮らすことは、人生を豊かにすると思うんです」


自分の“好き”という感性や居心地良さを考えながら暮らす平野さんのライフスタイルは、日常をもっと楽しくするヒントがたくさん詰まっていた。

今回ご紹介するレシピ

  • 鍋の力で春野菜のうまみを引き出す“春野菜のオイル蒸し”
  • 炊き込みご飯のおいしさは絶品!“そら豆とアスパラガスのごはん”

RECIPE / 春野菜のオイル蒸し

「オイル蒸しは野菜の水分やうまみを引き出し、やさしい熱によって火が入る、まさにル・クルーゼの真価を発揮する料理。作り慣れた煮物や汁物でも野菜をオイル蒸ししてから作ると別物!?っていうくらい、おいしくなるんです」

材料

[2人分/シグニチャー ココット・ロンド 20cm]



  • そら豆                8さや
  • アスパラガス     3本
  • キャベツ            1/6個
  • にんにく            1かけ
  • アンチョビ         2枚
  • オリーブ油         大さじ1
  • 塩、こしょう     少々

作り方

  1. そら豆はさやから出す。小鍋(EOS ソースパン)に湯を沸かし、さっと湯通しして薄皮をむく。
  2. アスパラガスは根元の硬いところを切り、硬い皮をむき、食べやすい長さに切る。キャベツは手で食べやすい大きさにちぎる。芯は薄切り、葉の芯はたたいて潰す。
  3. にんにくは半分に切って芽をとってつぶす。アンチョビは粗みじん切りにする。
  4. 鍋にオリーブオイル、にんにくを入れて中火で熱し、いい香りがしてきたらアンチョビ、キャベツの芯、キャベツの葉を加えてひと炒めする。水大さじ3を加えてふた をして中弱火で2分オイル蒸しにする。途中で2〜3回かき混ぜる。アスパラガス、そら豆を加え、フタをしてさらに2分加熱する。仕上げにこしょう少々をふる。

POINT

  • あくまで茹ですぎないこと。ザルにあけて熱湯を通す程度でOK。ちょっとした手間ですが湯通しをすることでむきやすくなります。
  • 春キャベツは芯がやわらかいので、手でちぎるとオイルのなじみが良くなる。
  • 硬いキャベツの芯からやわらかい火通りの良い野菜の順に、時間差で加えていく。野菜から引き出され、鍋についた水滴は鍋に戻す。

RECIPE / そら豆とアスパラガスのごはん

そら豆は沸騰したところに加えて、柔らかく火を通し、豆の風味をたっぷり移します。アスパラガスは蒸らす時に加えると、歯応えよく、色鮮やかに火が通ります。炊飯器は途中で食材を加えたり、取り出すことができないけれど鍋なら簡単。炊飯時間10分、蒸らし10分で本当においしいご飯が炊けますよ。味付けは塩だけなのにごちそう感たっぷりのメニューです」

材料

[2人分/ココット・エブリィ 18]

  • そら豆                6さや 
  • アスパラガス     2本
  • 米                       2合
  • 水                       345ml〜360ml
  • 酒                       大さじ1
  • 塩                       小さじ1
  • 桜海老(釜揚げ)60g

作り方

  1. 米はといで1時間浸水させた後、ざるにあげて水切りする。
  2.  そら豆はさっと湯通しをして、薄皮をむく。アスパラガスは根元の硬いところを切り、硬い皮をむき、1センチ幅に切る。
  3. 鍋に米、水、酒、塩を加え混ぜ、中火にかける。沸騰したら、一度ライススクープで素早くかき混ぜる。
  4. そら豆をのせて、内フタ(インナーリッド)をのせて弱火で10分炊く。
  5. 炊き上がったところにアスパラガス、桜海老を加えて10分蒸らす。

POINT

  • そら豆だけの炊き込みご飯なら、皮も一緒に炊くとご飯に風味がうつります。炊き上がりのそら豆は少し崩れるくらいの柔らかさですが、それがまたおいしい。形を残したい場合には、一部をとっておいて、アスパラガスと一緒のタイミングに加えてもいいですね。
  • 沸騰したら一度かき混ぜると、よりムラなく炊き上がる。ココット・エブリィは内フタ(インナーリッド)がついているので吹きこぼれることがなく、米に適切な圧力がかかる。
  • アスパラガスは蒸らし時間に加えるだけでほどよく火が入る。食感が損なわれず、色も美しくなる。



料理研究家

平野 由希子

本格的なフレンチから毎日のおかずまで、シンプルで作りやすい料理を雑誌、書籍などで紹介。 J.S.A(日本ソムリエ協会)認定ワインアドバイザー。2010年には東京・大井町にワインバー「8 huit.(ユイット)」、根津にて焼き鳥&ワインの店「76vin(ナナジュロクバン)」を経営するなど、多方面で活躍中。