うまみキッチンコラム > 毎日の食から見つける幸せ(平野さん/インタビュー)
2021年04月13日更新
毎日の食から見つける幸せ
私たちが生活する上で欠かすことのできない、毎日のごはん。ともすれば、流れ作業になりがちな食事づくりがもっと楽しく豊かな時間になれば、心地よい暮らしにつながっていくはず。何より大切なのは〝食事づくりを自分自身が楽しむ″こと。その想いは、料理研究家の平野由希子さんが紹介するレシピにも表れています。
「料理が好きだからこの仕事をしているのはもちろんですが、レシピを考えるのが特に好きなんです。何を提案したらみなさんに喜んでもらえるかを常に考えていますね」
トレンドを追う必要はないけれど、ファッションと同様にメイクやインテリアだってアップデートする事が必要。それと同様に年齢を重ねることでつくる料理だって、変わっていくのだという。
「シンプルなものをそのままシンプルにつくってもつまらないでしょう? シンプルな料理をつくる時こそ、新しい気づきを提案するようにしています。常になにか新しいことを見つけようという気持ちになっているから、いつも食べている料理だって、じっくり見つめていると新しい発見はいくらでもあるんです」と平野さん。
レシピを考える上で心がけていること
再現性
「家庭でつくるレシピを考える時は、なるべく引き算するようにしています。材料も工程も少なくして、同じ道具を使えば、手軽においしいものが再現できると思うから」引き算とはいえ、決して手抜きや時短をするではなく、必要なものは入れて、手間暇を惜しまないのが平野さん流だ。
材料や手順が少なければ、失敗も少ない。
「今回紹介したポトフなんて材料はたった2種類だけなんですけど、きちんと塩を使って、ル・クルーゼの鍋で丁寧に火を入れてあげるとうまみや深みがぐっと増すんです。やさしく熱を入れるとできあがった時の素材の食感や味わいはもちろん、スープに味の深みが出ます。どう火を入れるかで料理は変わります。野菜に限らず、肉や魚も無理して加熱した物とは味が全く違うんですよね」また、もうひと味欲しいと思った時、おすすめなのがハーブだという。
「固形のブイヨンを使うのをやめて、ハーブを入れてみてください。そこに適切な量の塩を加えれば、本当においしいだしが簡単にとれますよ。おすすめはタイム。何種類ものハーブを合わせなくても、タイムが入っているだけでフレンチ感が出せるんです」そして、いちばん大切なのは自分自身が食事づくりを楽しむこと。
料理をただの作業にするか楽しみにするかは自分の考え方次第。
「料理ってこうでなくてはいけない、という決まりはないと思うんです。例えば、野菜の大きさも揃えて切るのではなくて、ちょっといい加減なくらいがいい。ごろっとした野菜もあれば、煮崩れているものもある。1つの鍋でいろいろな食感が楽しめるでしょう?なんでも楽しくやると、おいしくできますよ」
たくさんの材料や難しい工程がなくても、味わい深くおいしい料理はつくれる。何より、自分の考え方次第で、心豊かな食生活が送れることを平野さんから学んだ。
今回ご紹介するレシピ
- 手羽元のコクと野菜のうまみがたっぷり!新玉ねぎの梅入りポトフ
- ひと鍋でできる!新玉ねぎたっぷりのナポリタン
RECIPE / 新玉ねぎの梅入りポトフ
「ポトフは今日作って今日食べきるというお料理ではなく、素材からスープをとって、具も食べるという合理的なフランスのお料理。たっぷりと作りたいので、27cmのオーバルを選びました。今回は手羽元にしましたが骨付きのもも肉など、違う部位を何種類か入れるのもおすすめです。隠し味として、梅干しを加えることでほんのりとした酸味と旨味が加わり、少し新鮮な印象のポトフになります」
材料
[4人分/シグニチャー ココット・オーバル 25cm]
- 新玉ねぎ 小3~4個
- 水 2リットル
- 手羽元 9~12本
- 梅干し 2個
- タイム 2枝
- ローリエ 1枚
- 塩 大さじ1
- 粒こしょう 小さじ1/2
作り方
- 手羽元に塩をもみ込み、10分以上置く。出てきた水気は拭く。
- 新玉ねぎは皮をむく。むいた皮は洗ってとっておく。
- 鍋に新玉ねぎ、手羽元、水を入れて中火にかける。沸騰したらアクをすくう。
- 新玉ねぎの皮入りブーゲガルニを作る。だしパックに新玉ねぎの皮、タイム、ローリエ、粒こしょうを入れる。
- 4.のブーゲガルニ、梅干しを加えて弱火で20〜30分煮る。塩、こしょうで味をととのえる。粒マスタード、柚子胡椒、塩などを添えていただく。
POINT
- 骨付きの肉を使うことでスープがおいしくなる。
- 新玉ねぎは旬の今だからこそ、丸ごと煮て、そのうまみを味わうレシピに。玉ねぎの皮にはポリフェノールが多く含まれ、カルシウム、マグネシウムも皮と皮の近くに集まっているため、このレシピでは玉ねぎの皮も使ってスープをとる。
- アクが出てきて集まってきたら、中央に寄せてすくう。アクを丁寧にすくうことで澄んだスープになる。
- 隠し味として、梅干を少し加えています。梅干を加えることで酸味と旨味が加わり、少し新鮮な印象のポトフに。梅干はドライフルーツだと思っています。赤ワインやトマトとも実は相性がいいんです。
- ル・クルーゼの鍋は保温力が高いので、火を止めてからゆっくりと素材が通る。余熱で火を通すようにすると、素材が煮崩れずにやさしく火が通る。
RECIPE / 新玉ねぎたっぷりのナポリタン
「定番人気のナポリタンは、パスタを茹でてフライパンで炒める手間がかかりますが、このレシピは新玉ねぎのうまみやおいしい水分をパスタに入れて煮詰めていく、ひと鍋パスタ。作る工程が少ないのはもちろんですが、新玉ねぎとケチャップの煮汁で煮ることで、野菜のうまみやケチャップが染み込んだ味わいになっています。春なら菜の花やグリンピースを入れたり、ししとうやケールなどほろ苦い野菜を加えると、新鮮なナポリタンになるし、野菜もたっぷりとれるのでおすすめです」
材料
[2人分/シグニチャー ココット・ロンド 22cm]
- スパゲッティ(ゆで時間10分のもの) 160g
- 新玉ねぎ 大1個
- カゴメトマトケチャップ 大さじ6
- ピーマン 2個
- ベーコン 4枚
- にんにく 1かけ
- オリーブオイル 大さじ1
- 水 2と1/4カップ
- 塩、こしょう 各少々
- バター 大さじ1
作り方
- 玉ねぎは半分に切り、さらに1cm幅に切る。ピーマンは輪切りにする。ベーコンは1cm幅に切る。
- 鍋にオリーブオイル、にんにくのみじん切りを入れて中火で熱し、よい香りがしてきたら、玉ねぎ、ベーコンを加えて炒める。
- 全体に油がなじんだらトマトケチャップ大さじ4を加え混ぜ、水を加える。
- 煮立ったら、スパゲッティを手で半分に折って加え、混ぜる。フタをして煮る。途中で何回かかき混ぜながら袋の表示時間通り煮る。
- 煮上がりが近づいたら、バター、ケチャップ大さじ2、ピーマンを加え、水分をとばしながら煮汁がからむまで煮る。塩、こしょうで味をととのえる。
POINT
- 玉ねぎは厚めに切ってたっぷり加えて、新玉ねぎの甘味を味わうパスタに。ピーマンは輪切りにすることで、柔らかく味わえる。
- トマトケチャップと水で煮ることで、パスタにしっかり味がしみこむ。水の量はパスタのゆで時間に応じて加減する。10分ゆでなら、2と1/4カップ。8分ゆでなら2カップを目安に。新玉ねぎからも水分が出てくるので、それをパスタが吸い込む。
- ひと鍋でできることで手軽なのはもちろん、野菜のうまみが染み込むのも魅力。
- ケチャップの2度使いでしっかりと味を決める。バターでコクをアップ。時間差でいろいろな野菜を加えることで、野菜たっぷりのナポリタンにすることも可能。ピーマンの代わりにケールなどを加えるのもおすすめ。
料理研究家
平野 由希子
本格的なフレンチから毎日のおかずまで、シンプルで作りやすい料理を雑誌、書籍などで紹介。 J.S.A(日本ソムリエ協会)認定ワインアドバイザー。2010年には東京・大井町にワインバー「8 huit.(ユイット)」、根津にて焼き鳥&ワインの店「76vin(ナナジュロクバン)」を経営するなど、多方面で活躍中。